2020年度第1回「安全保障研究部会」を開催
「日本を取り巻く安全保障上の課題を議論」

 当学会は2020年11月29日、安全保障研究部会(部会長・下平拓哉常任理事)をリモート開催した。「現在の日本が直面する安全保障上の最大課題」をテーマに、安全保障問題などを専門とする会員2人が報告を行った。

 はじめに、牧野愛博氏(朝日新聞社編集委員)が「ポスト・イージス・アショアが浮き彫りにした日本安全保障の課題」を報告。まず、日本にイージス・アショア(陸上配備型迎撃ミサイルシステム)配備が計画された経緯や、その計画が2020年6月に中止された経緯を解説した。

報告者・牧野愛博氏

 牧野氏によると、イージス・アショアの日本配備計画は元々、イージス艦による対応の限界から生じたものだったが、ブースターが民家に落下する危険性などから安倍前政権が断念した。代替案として自民党国防議員連盟がイージス艦の増加を提言しているが、同氏は人員確保の困難といった課題も指摘した。

 次に、牧野氏はミサイル防衛の実効性を高める観点から、「敵基地攻撃能力」を日本が持つべきかどうかについて問題を提起。問題の中身や重要性に関し、一般には十分に認識されていないと主張した。

 また、牧野氏は安全保障をめぐる日本周辺の情勢について、中国・北朝鮮の軍拡や米国の中距離核戦力(INF)全廃条約からの脱退、中国の南シナ海への進出などに伴い、著しく変化していると指摘。こうした状況を踏まえ、専守防衛の概念の整理や軍事と外交を複合した戦略づくりの必要性を訴えた。

 次に、下平拓哉氏(事業構想大学院大学教授)が「習近平の軍事戦略」を報告し、中国の軍事力や軍事戦略に対する分析を示した。

報告者・下平拓哉氏

 宇宙開発分野において、下平氏は中国が既にロケット発射数で世界トップに立つなど、高い技術力を有することを紹介。2020年10月に開催された中国共産党の重要会議「5中全会」では、2035年までに国家ガバナンス強化の一環として国防力強化の意思を明確にしたと強調した。


 また、米国防情報報局や国防省、国務省などの報告書などを基に、中国の軍事力・軍事的意図に関する米国側の分析を解説。この中で、国務省が中国を冷戦期のソ連と同様の脅威として捉え、その源泉が中国共産党とその目標、すなわち党の国内権力維持と世界支配にあると認識していることを紹介した。

 さらに、下平氏は中国人民解放軍が急速に増強されている実情を指摘。軍事費において米国には及ばないものの、兵力数で中国は正規軍230万人と米軍(140万人)を凌駕。このほか、人民解放軍が150万人に上る武装警察を管轄下に置くなど、一元化の動きにも注意を喚起した。

 報告後の議論において下平氏は、当面中国が台湾に軍事的な実力行使に出る可能性は小さいとの見解を表明。これに対して参加者からは、中国はむしろ台湾社会に入り込み、情報工作を通じて台湾の独立勢力の力を削ぐ動きを強化するのではないかといった見方が示された。