日本危機管理学会2024年度(第33回)年次大会

日時    : 2024年5月18日(土)10:00~16:00

会場    : 拓殖大学 文京キャンパス C301

司会進行: 篠原雅道常任理事            

 日本危機管理学会は2024年5月18日、第33回年次大会を開いた。東京・拓殖大学文京キャンパスの会場とオンライン会議システムをつなぎ、「ハイブリット形式」で開催。冒頭、新西誠人理事長(多摩大学専任講師)は、「コロナ禍によりハイブリッド形式での開催が可能になり、危機管理への対応が進む一方、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルとパレスチナの戦争など、地域に限らず物価高騰を含む世界的な問題も深刻化している。2024年は選挙イヤーでもあり、様々な影響が懸念される。本日の年次大会での発表や議論が今後の危機管理における一助となることを願っている」と述べた。

報告

1.「21世紀の地政学的・地経学的リスクとインパクト」 下平拓哉(社会構想大学院大学)

 ロシア、中国といった地政学的リスクと経済の不確実性の増大に伴い、国際社会では現状に対する危機意識と信頼関係構築の重要性への認識が強まっていると指摘。また、AI、異常気象などの自然災害、など様々なリスク実態について報告された。このような厳しい状況の中で、グローバルリスクに対処するためには、国境を超えた協調が求められており、その意味からも、今度の米大統領選挙の結果が相当大きなインパクトをもたらすだろうと報告した。

2.「台湾の政党勢力図の地殻変動」 武重直人(リコー経済社会研究所)

 国際社会の中で議論が続く中国の台湾統一に関し、先行研究のフレームワークを用い、中国の「独立阻止」の視座から、①中国共産党による統治根拠の再獲得、②台湾の政党勢力、③習政権のナショナリズム訴求と台湾統一、④習政権の共産主義イデオロギー強化と台湾、などを切り口に分析を行い、今後の見通しとして、中国は台湾・民衆党を利用していくのではないかなどと指摘した。

3.「2008年金融危機後、日本のエレクトロニクス企業がとった財務強化策からの示唆」 杉由紀(多摩大学大学院)

 2008年金融危機をはじめ、事前に予期することが難しい外部要因による経営環境の激変など、大きな経営環境の変化が生じる中で、企業はどのような対応力(レジリエンス)を備えるべきであろうかという問題意識の下、日本企業の資金調達の状況を調査し、特に、総合電機大手5社と民生電機大手3社の財務データを詳細に比較検討した結果を報告した。予見しえない危機に対し、企業が財務戦略で備え、それを支えるガバナンス体制の維持が有効であると指摘した。

4.「リスクの可視化とマッピングへの問題提起~パターン別マッピングの有用性を考察する~」 田代順(マテリアルグループ)

 実務者の立場から、リスクリスクアセスメントの有効性を高め、より詳細な対応策の策定を支援するためにも、リスクの可視化とリスクマッピングが必要である旨を指摘した上で、5つのパターンをフレームワークとして提示。事例検証を通じて検証を行い、同フレームワークの妥当性を主張し、リスクを効果的に管理し意思決定を支援するものだと報告した。

5.「形篇と地形篇の論理的解釈-孫子の組織―」 神藤猛(東京工業大学)

 軍争篇を中心に分離配置された形篇と地形篇の両篇の呼応関係を、先行研究をベースに孫子13篇を読み進め、特に、孫子13篇のオントロジー(危機管理の情報を組織化する構造)を手がかりとすることで、至難とされた孫子13篇の理解が飛躍的に向上したなどと報告した。

6.「多摩地域の水害の特徴と求められる情報発信」 長田華山、趙彦明、河端南、朴紹然、新西誠人、田中友理、荻野博司(多摩大学)

 多摩大学を防災拠点にすることを視野に入れた調査結果について報告した。防災の中でも多摩地域で求められる水害対応に着目し、過去の水害に関する文献調査を行うとともに、地元自治体や関係する他大学へのヒアリング調査などを報告した。また学生に対して災害に対する意識調査を行い、これに対応するための情報発信の重要性について報告した。

7.「能登半島地震から見えてきた避難所の課題」 濱口和久(拓殖大学)

 災害大国である日本が最悪の事態を想定して災害に備えることが出来ているのかをテーマに、2024年1月1日に発生した能登半島地震をケースとして、様々な切り口から防災に関する課題を指摘した。特に、これまでの災害対応でも問題視されてきたトイレや食事に関する課題を取り上げ、その対策の一つとして病院船の整備を提言。最後に「うわべだけの防災政策ではなく、地域特性に応じた防災政策への転換が必要」と強調した。

 最後に増田幸宏会長は、一連の報告と討議を受けて、「日本危機管理学会ならではの報告が行われ、様々な視点から活発な議論がされた」と総括した。

 なお、日本危機管理学会は年次総会で下記の人事を決定した。

理 事  謝凱雯、濱口和久、西田慎太郎、榊原一也

 (注)新任のみ掲載

【日本危機管理学会事務局】